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CG’s EYE

急ピッチに進む教育改革Vol.11
戦後最大級の英語教育改革~横浜市の取り組み~

No.022 2017年06月01日

シリーズ11回目の今回は横浜市教育委員会国際教育課取材記事をお届けします。

日本の英語教育は大きな変化の時を迎えています。テストのための英語から、CEFR(セファール)をベースとした使える英語へ。2015年に公表された「生徒の英語力向上推進プラン」では「平成29年度までに中学3年生の50%が英検3級程度以上の英語力」を目標とし、その達成に向けた各自治体の取り組みとその結果を公表するようになりました。今年4月に公表された昨年12月の結果では、その目標を達成した自治体はまだありません。そんな中、すべての中学3年生が英検を受検している横浜市では、中学3年生の英検3級以上の取得率が38.5%と、全国トップの結果でした。

2020年度から完全実施となる次期学習指導要領では小学校5・6年生で英語が教科化され、中学校卒業時での到達目標も引き上げられていきます。2020年を前に、すでに入試や学校教育が変化を見せ始めている中、横浜市立小・中学校の英語教育推進を担う国際教育課に、現在の取り組みと今後に向けてお話を伺いました。

横浜市教育委員会事務局指導部 国際教育課 課長 甘粕亜矢先生
横浜市教育委員会事務局指導部 国際教育課 首席指導主事 山義明先生
株式会社中萬学院高校受験指導事業部 英語科教科長 弦巻桂一
株式会社エドベック 代表取締役社長 トンクス・バジル

横浜市独自の取り組みが成果に

―中学3年生の英検3級以上取得率38.5%の背景を教えてください

写真:急ピッチに進む教育改革Vol.11

【甘粕先生】一つは英検の全員受検があります。横浜市では昨年度から中学3年生全員が希望に合わせ、英検5級から2級を選び受検します。ただ、先生方には英検対策用の授業はしないでくださいとお願いしています。英検3級以上では4技能ごとに合格基準が設けられ詳細な結果も出ます。ふだんの授業でどれだけ力がついているかの指標になりますし、子どもたちにとっても自分の弱い部分を知り学習に役立てられるからです。

【弦巻教科長】4技能を意識した授業が中学校でも増えましたね。スピーチを行ったりライティングの課題が多く出されたりしています。ふだんの授業が英検の結果にもつながっているのではないでしょうか。英検上位級の取得者は、公立高校入試の学力検査得点でも高得点に分布する相関が見られます。学校成績は定期テストの結果だけでなく、スピーチや課題学習など、ふだんの学習成果がより色濃く反映したものとなっていますね。

【甘粕先生】もう一つ横浜市独自の取り組みとして、小学1年生から4年生での「外国語活動」を挙げることができます。現在の学習指導要領では5・6年生で年間35時間の外国語活動が定められていますが、横浜市では1年生から4年生でも年間20時間の外国語活動を行っています。6年間英語に親しむことで英語に対する抵抗感が少なくなり、中学以降の英語学習の土台になっているのではないでしょうか。

「つなぎ」と「積み重ね」を大切に

―いよいよ小学校での英語教科化が始まります

写真:急ピッチに進む教育改革Vol.11

【甘粕先生】小学校の「外国語活動」から中学校の「教科」へ移行すると、英語嫌いになる子どもが出てしまうことが残念ながらあります。「覚えて間違えてはいけない英語」がその理由の一つです。小学校での英語教科化が英語嫌いの前倒しになってはいけませんから、活動から教科へどう「つなぐ」かは課題の一つです。
そこで5・6年生で教科として学習する内容を、1年生から4年生までの4年間の外国語活動を通して繰り返し体験できるよう、体系化していきます。その体験の「積み重ね」が5・6年生での「読む」「書く」も含めた教科学習に「つながる」というイメージです。「読む」「書く」ということでは、たとえば外国の人に手紙を書いて返事をもらうといった活動を通して、読んで理解する、書いて伝える楽しさを体験させるといった工夫も必要になるでしょう。ローマ字とアルファベットの違いにつまずかないことにも注意が必要です。 5・6年生の英語教科指導は担任が行います。担任ならではの子どもたちの興味を引き出したり他教科の授業と連動させたりすることもできますし、教科ですから「評価」をつける必要もあるからです。

―小学校の先生も不安ではないでしょうか

【甘粕先生】学校には英語指導の中心となる先生を配置できるよう、研修を行っています。また、事例集を整備したりしていきます。先生方の英語スキルについては、自信をもっていただけるよう研修を行っていきます。ネイティブの発音はAET(英語指導助手)やCDなどの活用で対応できると思います。

【トンクス社長】全世界の英語使用者の6割ぐらいは英語を母国語としない人たちで、発音もさまざまです。ネイティブの発音を学ぶ機会は必要ですが、英語指導者に今最も求められるのは、子どもたちの英語学習意欲を喚起できる「ファシリテーター」的な役割です。

―2018年度からの先行実施は行うのでしょうか

【甘粕先生】学習指導要領の先行実施は、英語に触れていない子どもがいきなり英語を教科として学ぶことを避けるようにするということも大きいです。横浜市ではすでに外国語活動を行っていますし、何より十分な準備をした上で導入すべきだと考えています。ですから、来年度から先行実施することは今のところ考えていません。時間割をどうするかなど、個々の学校での判断が難しい課題もあります。

中学校では授業外でどれだけ英語に取り組めるか

―中学校では習得英単語数が1.5倍、到達目標も高くなります

【甘粕先生】次期学習指導要領では「何ができるようになるか」という資質・能力の育成を目指しています。子どもたちには「自分が言いたいこと伝えたいことを英語で言えるようになってほしい」と思っています。それをどう身につけさせていくか、授業もテストも変わっていくでしょう。
以前より授業中の発話の機会は増えてきました。ただ、ドリルやスキットだけでは日常場面でのコミュニケーション能力は身につきません。自分の言いたいことを伝える力をつけるためにこれからは「パフォーマンステスト」も必要です。定期テストも単元毎に区切られた内容だけではなく、それまでの積み重ねを生かせるもの、たとえば制限時間内に自分の意見をいくつ書けるかなどのテストも良いでしょう。習得単語が増えればそれだけ言いたいことが自分の言葉で言えるようになる、とぜひとらえてほしいですね。単語も文法もそのために学習するのですから。
しかし英語の授業は週4時間しかなく、授業内でやれることは限られています。ですから、子どもたちの自発的な活動、努力をいかに引き出していくかがいちばん大切なことだと思います。子どもたちが主体的に参加する夏休みの「イングリッシュデイキャンプ」開催や、中学校でAETと常に触れ合える常駐配置などのこれまでの取り組みも、そのきっかけとなればと願ってのことです。「やりたい」と思える環境づくりが大切だと思います。

【トンクス社長】次期学習指導要領では中学校でCEFR_A2、高校でB1以上という高い目標が掲げられました。私の母国カナダのバイリンガル教育を例にすると、CEFR_B1レベルに到達するには2,500時間必要だと言われています。学校や塾の授業だけでは足りません。自分で相当頑張らないといけませんね。

【弦巻教科長】私たちが中学生の頃は洋楽や洋画などへの「あこがれ」が英語学習のモチベーションの一つでした。今の中学生はそうではありません。むしろ「日常の中での英語」にどれだけモチベーションをかけられるかが、カギになっています。

写真:急ピッチに進む教育改革Vol.11

英語学習を楽しむ環境づくりを

―今後私たち学習塾やご家庭で気をつけたいことは

【甘粕先生】テレビやインターネットなど、今は簡単に英語が手に入る環境です。ご家庭でも英語に触れられる場面をたくさん作っていただけると良いですね。映画の字幕では伝わらない英語の面白さに気付けたり、日本では取り上げられないようなニュースを海外の報道で知ったりできるのはとても素敵なことです。

【山先生】英語を楽しめる環境づくりがいちばん大切ですね。「これができないとダメ」ではなく、「これができるとオモシロいね楽しいね」を大切にしてほしいです。できるところは認めてあげるというのをやっていただけると良いと思います。

【甘粕先生】子どもの間違いを直す際に「このほうがもっと通じるよ」「こうやると二文が一文になってカッコイイよ」といった指導が、学校でも民間教育でも大切にされると良いですね。

―ありがとうございました

取材を終えて

トンクス・バジル社長
限られた設備と予算の下で最大限に良い英語授業を提供しようという横浜市教育委員会の先生方の熱意、取り組みに共感しました。文部科学省の英語習得目標は「学校での勉強時間」だけで達成することの難しいものです。英語学習者の自立した努力をいかに引き出すか。そのためには学校任せではなく、民間教育の協力も不可欠です。従来の対面授業の提供とICTプログラムの導入によって、学習者の自立学習、目標達成に大きく貢献できると確信しました。

英語科教科長 弦巻桂一
「覚えて間違ってはいけない英語」から興味を持ったことを発信する「目的達成のための英語」に英語指導が大きくシフトしていること。文法のミスを指摘しやる気をそぐのではなく、パフォーマンステストの機会を増やし、「こうやるとかっこいいよ」と勇気付けをする指導が求められていること。これまで生徒からの話やテスト問題から間接的に伝わっていた変化をあらためて確認できました。私たちは子どもたちの学習モチベーションを引き出すための環境・ツールを提供し、英語教育の発展につなげたいと決意を新たにしました。

英語教育改革についてはCG'sEYEバックナンバーもご覧ください

小学校英語の学習内容と到達目標 No.018(2017年2月1日)
大学英語入試と英語力調査結果 No.021(2017年4月28日)

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