株式会社中萬学院 - 神奈川県・横浜市の学習塾・進学塾

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2014年10月公開号
vol.32 特集:急ピッチに進む教育改革vol.3

~2020年に新学習指導要領完全実施~
学習指導要領はおよそ10年ごとに改訂されてきました。現在の学習指導要領は移行期間を経て、小学校では2011年度から、中学校では2012年度から完全実施となり、高校では2013年度から年次実施されています。そして新学習指導要領は、2018年度から小学校で先行実施され、2020年度から完全実施が予定されています。
現在、その新しい学習指導要領のベースとなる考え方が、まさに検討されている最中です。それはどのようなものでしょう。まずはこれまでの歴史を振り返ってみます。

「知識基盤社会」が世界の教育を変える

 2000年4月に開催された沖縄サミットでは、先進8カ国の教育大臣が会合を持ち、21世紀の教育のあり方について議論が交わされました。そこで登場したのが「知識基盤社会(knowledge-based society)」です。21世紀は知識基盤社会だ。それを踏まえた教育を進めなければいけない、ということで、教育の共通言語は英語だということも確認されました。OECDが実施する学習到達度調査(PISA)もこの年から3年ごとに実施され、その結果が毎回話題に上がるようになりました。
知識基盤社会は「knowledge-based society」。「knowledge」を英英辞典でみると「the information, skills, and understanding」とあります。すなわち「スキル(技術・能力)」も含んだ意味合いです。一般的に知識というと、テレビのクイズ番組や暗記ものといった、知っているか知らないか、という知識をイメージするのが多いと思いますが、「スキルも知識」ということはおさえておきたい点です。

知識基盤社会での「教養」

 同じ年の11月大学審議会は「グローバル化時代に求められる大学教育の在り方」の答申を、12月には中央教育審議会が「新しい時代における教養教育の在り方について」の審議のまとめを公表しました。前者では「社会全体としても教養の重要性が改めて指摘される中で、我が国の高等教育においては、新たな教養教育の在り方を考慮した教育の推進が求められる」と、高等教育での「教養」の重要性が指摘されました。また後者では、幼児教育から初等中等教育含めすべての世代での「教養」の重要性が説かれました。当時は「ゆとり教育」「学力低下」が世間の話題の中心でしたが、その陰で「教養」の重要性がこのように取り上げられていたわけです。では「教養」とはどのような意味でしょう。
 2002年2月の「新しい時代における教養教育の在り方について(答申)」では教養を次のように定義しています。

「変化の激しい社会にあって、地球規模の視野、歴史的な視点、多元的な視点で物事を考え、未知の事態や新しい状況に的確に対応していく力」

 そして今からちょうど10年前の2004年、大学名に「教養」を冠した公立大学法人国際教養大学が秋田に開学します。授業はすべて英語、1年間の留学が義務付けられる国際教養大学は、今では教育関係者で知らない人のいない、また経済界からも注目されています。初代学長は中嶋先生(故人)。2012年に中萬学院本社大ホールでの高校生に向けた講演の中で次のようにお話されています。
 「…1991年『大学設置基準』が大綱化され、教養教育がほとんどなくなってしまった。これがいちばんの問題です。…年間60~70万人いる大卒者のうち、英語で仕事ができるTOEICスコア650点レベルは1千人にも満たないのです。…コンピュータ時代もグローバル化も後戻りできない。そうなればなるほど学問の原点、ヒューマニズムなどが重要になるのです。…」
 また同じ年、早稲田大学に国際教養学部が開設され、やはり1年間の留学が義務付けられ、多くの授業が英語で行われています。ちなみに、文部科学省によると2013年度に英語で授業を行う大学は全体の30%にあたる222大学と広がりを見せています。また国外大学との単位互換制度を実施するのは336大学、「ダブル・ディグリー制度(※)」を導入する大学も143大学となっています。先ごろ一橋大学が新入生全員の短期留学を2018年度までに義務付けることを発表するなど、大学での学びはまさに「グローバル化」してきました。
(※)「ダブル・ディグリー制度」…たとえば日本の大学に在籍し一定期間海外の大学に留学することで双方の学位を取得できる制度

「21世紀型能力」を踏まえた学習指導要領へ

21世紀型能力

 2006年、教育基本法が改正され、第二条(教育の目標)で「幅広い知識と教養を身につけ…」と学校教育で身につける力が明示されました。現行の学習指導要領はこれらの流れをくんで、2011年の小学校学習指導要領から順次実施されています。
 そして今、2020年から完全実施となる学習指導要領が検討されています。その土台となる考え方が「21世紀型能力」です。国立教育政策研究所が発表した「教育課程の編成に関する基礎的研究」報告書5(2013年3月)で示した「21世紀型能力」は、現行指導要領を踏まえ、これからの学校教育で身につけさせたい資質・能力を図のように3つの力にまとめなおしたものです。
 3つの力は、中核となる「思考力」、それを支える「基礎力」、その使い方を方向づける「実践力」の3つです。そして基礎力には3つの「スキル」が登場します。「言語スキル」は英語日本語を使い情報を読み取り表現するスキル、「数量スキル」は数字や統計・図表などを使って物事をとらえ考え判断するスキル、「情報スキル」はICTを使いこなすスキルです。思考力は構成要素が別に示されているので別図にまとめました。難しい言葉が並びますが、この中で特に注目したいのが「問いを発見する」「問いを解決するプロセスをデザインし実行する」という部分です。与えられた課題を解決するという受け身ではなく、どこが課題なのかを発見し解決への道筋を立てる能動的な力は、今後ますます求められていくことでしょう。ちなみに「リーダーの育成」を教育目標に掲げる公立中高一貫校や公立私立のいわゆる進学校の校長先生とお話をすると、リーダーの要件としてこの課題を発見する力とコミュニケーション力、実行力の3つがよくあがってきます。
 3つのスキルの基礎力に支えられた思考力、それをどう生かしていくのかの実践力を、教科学習を通して身につけていくというのが、新しい学習指導要領の土台となっていきます。

21世紀型能力「思考力」構成要素

新しい時代の新しい学力像を反映した学校作りと入試

 神奈川県の公立中高一貫校は2009年に県立相模原と平塚が、2012年に横浜市立南高校附属中学が、そして今年2014年に川崎市立川崎高校附属中学校が開校しました。「知識基盤社会」の中で「幅広い知識と教養を身につけ」、設置目的である「国際社会で活躍するリーダーを育てる」先進的かつ質の高い教育実践が行われています。4校の学校訪問記は中萬学院ホームページ「まるわかり公立中高一貫校」でご覧いただけます。
 神奈川県公立高校入試制度は2013年度入試から大きく変わりました。全員が学力検査と面接を受ける全国でも少数の制度のもと、「思考力・判断力・表現力」が重視された入試問題です。加えて各校が独自に行える特色検査。実技検査と自己表現検査に分かれ、特に自己表現検査は進学重点校を中心に教横断型、総合型のペーパーテストが行われています。
 公立中高一貫校での適性検査や公立高校入試の共通問題、特色検査問題には、新しい時代の新しい学力像が盛り込まれたものです。そしてその先に、大学入試での「達成度テスト」があります。大学入試センター試験に代わる「達成度テスト」は2021年、現小学6年生から受験することとなりそうです。どのようなテストか簡単に振り返っておきましょう。

適性検査、公立高校新入試そして達成度テスト

 達成度テストは基礎レベルと発展レベルの2種類が用意され、前者は高校生全員が受験します。その結果は推薦・AO入試といった、これまで学力テストの行われていなかった入試での参考資料として活用することが検討されています。受験生全員が学力検査を受験する神奈川県公立高校入試制度と考え方は同じですね。そして発展レベルが大学入試センターに代わるテストとして導入されます。複数回受験が可能であること、出題形式に「合科目型」「総合型」が検討されていることが特徴です。
 「合科目型」とは教科を横断した出題形式、公立中高一貫校適性検査をイメージすると良いでしょう。「総合型」の例としては、今年開校した川崎附属中の交流会を企画する問題や横浜緑ヶ丘高校特色検査の交流会企画シートを作成する問題、湘南高校、希望ヶ丘高校特色検査の暗号解読問題などが挙げられます。
 このように適性検査対策学習や特色検査対策学習は、そのまま将来の達成度テスト対策にも通じるということが言えます。

戦後最大級の改革の中で

2000年以降の教育改革年表

 21世紀を目前に控えた2000年の沖縄サミットから、2020年の新学習指導要領までわずか20年の間に起こり起こりつつある改革の流れはまさに「戦後最大級」と言えます。加速度的に進むグローバル化、ICT化の波にほんろうされぬよう、子どもたちに身につけさせたい土台となる力は何か。もちろんさまざまな答えがあるでしょうし、どれもが正解だと言えます。編集部なりに回答するならば、土台となる力は言語スキル・数量スキル・情報スキルであり、「教養」であると考えます。その土台のうえに確かな「思考力」を高めていくことが大切だと考えます。
 それらは何も特別なところにあるのではなく、日々の学習をしっかりと積み重ねることで身につけられるものです。受験勉強であってもそれがグローバル社会で必要な力を身につけているんだととらえ、ぜひ日々の学習に励んで欲しいと願います。

furel‘scope:スーパーグローバル大学創成支援とは

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