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CG’s EYE

高等学校学習指導要領案

No.031 2018年03月01日

今回のCG’s EYEは、2月14日に公表された高等学校指導要領案について取り上げます。パブリックコメントを3月15日まで受け付けた後公示され、2022年度入学生から順次実施されます。

高等学校学習指導要領で完成する

2020年英語教育改革、高大接続改革、そして新学習指導要領。戦後最大級の教育改革最後のピースが、高等学校学習指導要領です。初等中等教育の仕上げである高等学校教育。現行との違いを確認し、2020年小学校から完全実施となる新学習指導要領の特徴を復習していきます。

まずは、改訂の基本的な考え方を、現行学習指導要領案と新学習指導要領案で対照してみましょう。

【1】改訂(案)ポイントの対照

現行学習指導要領改訂案(2008年12月) 新学習指導要領改訂案(2018年2月)
「生きる力」を育成
  • 資質・能力を一層確実に育成
  • 「社会に開かれた教育課程」を重視
知識・技能の習得と思考力・判断力等の育成のバランスを重視 知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を養成
道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や健やかな体を育成 高大接続改革の中で実施される改訂

一つ目の「資質・能力」は、子どもたちが何ができるようになるかを示すことで「生きる力」を具体化しようというものです。「社会に開かれた教育課程」は、学校での学びが良い社会を創る力につながるよう、学校と社会とが育むべき資質・能力を共有するというものです。平たく言えば、「こういうことができるようになれば、21世紀社会で生きていく力を身に付けることになる」というわけです。

二つ目で注目するのは「理解の質をさらに高め」る方法です。それが「主体的・対話的で深い学び」つまり「アクティブ・ラーニング」。改訂案ポイントでは次のように書かれています。さらに「教科等横断的な学習の充実」「習得・活用・探究のバランスを工夫」などが示されています。

「生徒が各教科・科目等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題をみいだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう過程を重視した学習の充実が必要。」

キーワードは「論理」「理数」「探究」

それでは教科・科目の改訂案を見ていきましょう。

【2】高等学校の各学科に共通する教科・科目等及び標準単位数

青太字は必修
は新設・改訂

教科 科目
国語 現代の国語
言語文化
論理国語
文学国語
国語表現
古典探究
地理歴史 地理総合
地理探究
歴史総合
日本史探究
世界史探究
公民 公共
倫理
政治・経済
数学 数学Ⅰ
数学Ⅱ
数学Ⅲ
数学A
数学B
数学C
理科 科学と人間生活(※)
(※)「〇〇基礎」を1もしくは2科目加える

物理基礎
物理
化学基礎
化学
生物基礎
生物
地学基礎
地学
外国語 英語コミュニケーションⅠ
英語コミュニケーションⅡ
英語コミュニケーションⅢ
論理・表現Ⅰ
論理・表現Ⅱ
論理・表現Ⅲ
情報 情報Ⅰ
情報Ⅱ
理数 理数探究基礎
理数探究
総合的な探究の時間

※保健体育、芸術は変更なし

前回は28科目で、今回は2教科27科目での変更です。教科では「理数」が選択教科として新設され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」と、名称が変わりました。科目では数学Cが復活し、国語と地理歴史・公民そして外国語すべての科目が変更されます。

今回の改訂を象徴するひとつが、日本史と世界史を統合した必修科目「歴史総合」です。近現代の歴史の転換「近代化」「大衆化」「グローバル化」の3つに着目し、「世界とその中における日本を広く相互的にとらえ、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察する科目」として設定されます。また「地理総合」は「持続可能な社会づくりに求められる地理科目」として設定されます。

歴史を歴史として学ぶのではなく、あるいは地理を地理として学ぶのではなく、今現在起きている問題・課題をその歴史的背景や地理的背景からとらえようというわけです。

そしてそれぞれの総合で身に付けた成果を踏まえ、より深く探究するための履修科目として「日本史探究」「世界史探究」「地理探究」が設定されます。

「探究」がつく教科・科目は、現在ありません。これも象徴的な変化といえます。地理歴史の3科目のほか「古典探究」「理数探究基礎」「理数探究」、そして教科では「総合的な探究の時間」。現行「総合的な学習の時間」の目標は「横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して…」とあるのに対し、「総合的な探究の時間」では「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して…」と「探究」が中心にすえられ、自ら「探し」「究める」という主体的・能動的な学びが重視されていきます。

さらに「論理」。履修科目「論理国語」外国語「論理・表現」です。小学校のプログラミング必修化のねらいのひとつが「論理的思考力」の向上であることは、2017年12月公開のCG’sEYEで確認したところです。ロジカルに考えロジカルに伝える力は、多様な人々と協働するうえで大切な力だということなのでしょう。

そして新設教科「理数」。数理横断的なテーマに徹底的に向き合い考え抜く力を持った人材の育成を目指し設定されます。現在、日本の理数教育を推進するひとつの施策がスーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業です。「将来の国際的な科学技術系人材を育成することを目指し、理数教育に重点を置いた研究開発を行う」高校を指定する事業で、2002年度から始まりました。2017年度は全国203の高校が指定され、神奈川県内では5校が指定されています。

神奈川県内のSSH指定校(平成29年度指定)

  • 〇聖光学院高校
  • 〇県立厚木高校
  • 〇県立西湘高校
  • 〇県立横須賀高校
  • 〇横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校

「理数」は必修教科ではありませんが、すべての高校・学科で設置できるようにしたということで、理数教育への危機感を見て取ることができます。

特に現小学5年生以降がターニングポイント

冒頭、戦後最大級の教育改革最後のピースが、新しい高等学校学習指導要領だと表現しました。正確にはその学習指導要領を反映し変更されることになる、2024年度からの新大学入試が最後のピースといえます。新しい高等学校学習指導要領で学ぶことになる現小学校5年生が大学受験を迎える時です。すでに、2017年に発表された新大学入試の実施方針には、次のような方向性が示されています。

①英語4技能評価は民間資格試験のみに一本化し、大学入学共通テストから外す
②大学入学共通テストの科目の簡素化、複数回実施を検討する

「何ができるようになるのか」、その資質・能力の育成を教科横断的に取り組むというのが小学校から高校まで一貫した新学習指導要領の特徴です。2024年からの大学入試でもそれを反映したものへと一層変化していくことが予想されます。言い換えれば、より一層教科の枠を超えた「知識の活用」が重視されていくでしょう。

そして「論理」「理数」「探究」。現小学校5年生以下の子どもたちに必要な学びの機会は、英語4技能に加え、この3つの言葉で言い表すことができるといえます。

いよいよ新年度新学期。新たな学びのヒントにしていただけると幸いです。

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