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CG’s EYE

大学受験セミナー(主催:中萬学院 大学受験指導事業部)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口先生講演会ダイジェスト
「これからの高校生・大学生に必要なグローバルな視点と教養」

No.044 2019年04月01日

2019年3月17日(日)に開催された「大学受験セミナー」(主催:中萬学院 大学受験指導事業部)。今回は立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口先生の講演会ダイジェストをお届けします。
青山学院大学学長・三木先生

立命館アジア太平洋大学(APU)学長、学校法人立命館副総長・理事
出口 治明

1948年三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社に入社しロンドン現地法人社長、国際業務部長などを歴任。東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師を経て、2008年にライフネット生命保険株式会社を開業し代表取締役社長に就任。慶應義塾大学講師を経て、2012年に上場、2013年にライフネット生命保険株式会社代表取締役会長に就任。2017年に代表取締役会長を退任後、2018年1月に国際公募にて立命館アジア太平洋大学(APU)学長に就任。

世界を正しく見るために

世界を変えられる可能性

世界を変えるためには、まず世界を正しく理解する必要があります。しかしながら、人間は見たいものしか見ない、あるいは無意識に見たいように現実を変換してしまう動物です。

たとえば、日本の大学進学率について。「大学全入時代」などの言葉を耳にするなかで、皆さんは「日本の大学進学率は高い」といったイメージをお持ちだと思います。ところが、「大学進学率の世界比較」を見ると、OECD諸国では進学率が平均6割を超えているのに対し、日本は5割程度。つまり、大学は首都圏に集中しているだけで、日本全体の大学進学率は他の先進国よりも低いことが分かります。

このことは検索すれば1分で調べられますが、「日本の大学進学率は高い」という「社会常識」が自分の中にあると、そもそもそれを疑うのが難しいのです。だからこそ正しく物事を理解するためには、エピソードではなくエビデンスとして、何事も方法論をもって考える必要があります。その一つが「タテ・ヨコ・算数」、つまり歴史・世界の人の意見・データで考える方法です。

例を挙げましょう。皆さんの中には「少子高齢化を迎えた日本では、今後若者の負担がますます増える」と考えている人もいるでしょう。しかし、そもそも若者が高齢者を支えるというのは、高度成長期で人口が急激に増えたときの発想です。先に少子高齢化が始まったヨーロッパでは、「All supporting All」、つまり「生きている人がみんなで社会を支え、年齢ではなく『困っている人』に給付を集中しよう」という考え方にとうに切り替わっています。

また、中には「今後AIに仕事が奪われてしまう」と考えている人もいるでしょう。データによると、2030年には約800万名の労働力が不足するという試算もあります。政府が人手不足の対策として外国人労働者受け入れを検討していることからも、少なくとも政府はAIのみではその不足をまかなえきれないと考えていることが分かります。あの産業革命のときでさえ、確かに「針と糸」の仕事は機械が担うようになりましたが、経済が成長した結果新しい仕事が数多く増え、むしろ失業率は改善されました。つまりAIが発達しても仕事そのものは簡単にはなくならないと思うのです。

こう考えると皆さんの未来は決して暗くありません。それどころか、世界銀行のエコノミストたちからは「日本の若者は仕事が山ほどあって幸せだ」という声もあがっているほどです。

私たちは常に「社会常識」のシャワーを浴びており、それを疑うのは本当に難しいものです。ですが、時代の変化が速くなればなるほど、今ある「社会常識」は意味を成さなくなります。だからこそ、皆さんには常識を常に疑い、物事を「タテ・ヨコ・算数」という視点でみるという姿勢をぜひとも意識していただきたいのです。

個性が日本の未来をひらく

多文化社会で生きる、そのために

さて。もう一つ皆さんに大事にしてほしいのは「個性」を重んじることの重要性です。この30年の日本経済を振り返りながら考えていきましょう。

日本は1991年にGDP世界シェアのピークを迎え、当時のシェア率はアメリカに次ぐ8.89%でした。それがいまでは半減し、2020年には3.7%にまで低下すると予測されています。また、国際競争力(IMP)においても1991年には1位でしたが、いまでは26位にまで下降しました。なぜ日本は落ち込んだのでしょう。それは、新しい産業を生み出せなかったため、もっといえば日本が個性を徹底的に伸ばす人たちを大事にしようとしなかったためです。

30年ほど前は世界企業のトップはNTT、トップ企業20社のうち14社を日本企業が占めていました。しかし、いまでは0社です。かわりに入ったのは「GAFA (Google・Apple・Facebook・Amazon)」、そしてその予備軍の「ユニコーン(時価総額10億ドル以上かつ未上場のベンチャー企業)」といった設立15年~20年ぐらいの新しい企業たちです。では「GAFA」や「ユニコーン」といった企業はどのようにして生まれたのか。それは皆さんご存知のスティーブ・ジョブスのように、世界中の個性豊かな人、何かに特化した人が国を越えて集まり、ああでもないこうでもないと議論するなかで生まれてきたのです。

「ユニコーン」は現在、アメリカのシリコーンバレーに150社、中国に70社、ヨーロッパに30社、インドに20社あります。日本には0社です。日本はこれまで、素直で我慢強く、協調性があり成績の良い若者を育てることに注力してきました。もちろんそれ自体が問題なのではありません。問題は、社会に出てからの選択肢があまりなく、一つしかない富士山を目指すような教育を行ってきたことにあります。新しい産業というものは、個性を徹底的に伸ばす人たちによって生み出されます。言い換えれば、個性を大事にした先にこそ、これからの日本の未来があるのです。

個性は固定的なものでなく、様々な人に出会ったり、本を読んだり、いろいろな場所で経験をするなかで少しずつ変化していきます。APUの基本姿勢も「皆さんが本気でやりたいことを教職員が応援する」。世界89カ国・地域から集まった人々と様々な生活をするなかで、自身の個性をつきつめ、学生たちが成長する姿を僕も実際に目にしています。

これからの学びにむけて

「共通語」としての英語力

これまで話した通り、時代の流れが速くなればなるほど知識はすぐに陳腐化します。そのような時代に、皆さんはどう学びに取り組むべきでしょうか。

まずはやはり国語・算数・理科・社会といった主要教科を通じて自身の核をつくること、そして英語の力を養うことです。世界の共通語はプア・イングリッシュであるため必ずしも立派な英語を話す必要はありませんが、ビジネスの場でスーツを着るのと同じように、いまや世界で活躍するためには英語が前提となっています。

そのうえで大切なのは、根源的な「考える力」を育むことです。最先端の知識を得るだけではなく、そこにどのような背景があるのか、そしてこれからどのような世界になろうとしているのか。リベラルアーツの学びを通じて、物事の本質を自分の頭で考え続け、自分の言葉で自分の意見をまとめられる力をぜひ養ってください。最新の脳医学によると、好奇心や勉強する癖というのは19歳ごろにピークを迎えるそうです。いま皆さんが自身の好奇心を育て、勉強する癖をつけることが、これからの皆さんの良い人生にもつながっていきます。

最後に。人間はそれぞれの顔が違うように、一人ひとり考えや行動も違って当たり前です。「長所を伸ばして短所をなくす」という考えがありますが、長所は短所であり、短所は長所である。他人と比べる必要はありません。そして、学ぶためには何よりも「学びたい」という気持ちが皆さんにあることが重要です。皆さんがこれからの人生で自身が究めたいと思うことを見つけ、それに向かって励まれることを願っています。ご清聴ありがとうございました。

4月12日(金)放送 tvk「CHUMAN進学ナビステーション」にて講演の様子が放映されます。放送は18時過ぎから5分程度、放送後1カ月間は中萬学院のHPでもご視聴いただけます。ぜひご覧ください。

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