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CG’s EYE

大学受験セミナー(主催:中萬学院大学受験指導事業部)
横浜国立大学学長・長谷部先生講演会ダイジェスト
「グローバル新時代で活躍するために
―21世紀に生まれ21世紀に生きる君たちへのメッセージ―」

No.013 2016年09月01日

2016年6月18日(土)に開催された「大学受験セミナー」(主催:中萬学院 大学受験指導事業部)。今回は横浜国立大学学長・長谷部先生の講演会ダイジェストをお届けします。
21世紀に生まれ、そしてこれからの21世紀を生きていく高校生に向けて。時代の転換点にある今を、この先の時代をどう生きていくべきか。経済学の話も交え、21世紀という時代を振り返りながらご講演いただきました。
横浜国立大学学長・長谷部先生

横浜国立大学学長
長谷部 勇一

一橋大学経済学部経済学科卒業。横浜国立大学経済学部助教授・経済学部教授・経済学部長・国際社会科学研究科長・情報基盤センター長を経て、2015 年4 月に横浜国立大学学長に就任。比較経済システム、産業連関分析を専門に研究。

2016年6月18日(土)中萬学院本社大ホールにて開催

世界経済から見る21世紀

世界経済から見る21世紀

20世紀から21世紀の間、世界経済は大きく変貌しました。それは日本国内においても同様です。私の産まれた直後の1956年から1973年ごろまで、経済成長率は毎年平均10%近くを遂げ、1964年のオリンピックはまさに高度経済成長期さなかの開催でした。その後1990年までのバブル期においても平均4%の成長率でしたが、バブル崩壊後は平均2%から平均1%にまで低下。さらに2008年のリーマンショックにおいてはマイナス成長を経験しました。

また、今後日本では生産可能人口(15歳以上65歳未満)の減少が見込まれています。従来少子高齢化が進むといわれていましたが、実は生産可能人口自体はほとんど変わっていませんでした。しかし、今後2050年までに人口減少時代にはいり、生産可能人口も急激に減少するといわれています。労働生産性をいかに上げ、この生産可能人口の減少に対処するかが大きな課題になっています。

一方で世界に目を向けると、2000年以降のBRICS、特に中国・インドの成長が際立っています。一般的に「豊かさ」の指標とされる、GDPを例に見て参りましょう。1970年は世界のGDPの30%をアメリカが、23%をEUが、15%を日本が、と大半を先進国が占めていました。中国・インドは1%です。ところが、2011年にはアメリカが28%、EUが23%、日本が12%に対し、中国は8%まで上昇。さらに2012年には中国が日本をぬき、2015年の最新の統計では日本の2倍にまで至りました。世界銀行の推定によると、2050年には中国が21%、インドが7%、ASEANが5%、対して日本は5%程度であろうといわれています。

経済におけるこれまでの「グローバル化」とは、1990年代のソ連の崩壊、東欧諸国やアフリカの資本主義化のような「市場経済の拡大」を意味していました。しかし今日では、社会主義市場経済の中国や、カーストという欧米と異なる社会制度をもつインドの成長など、多様性のある経済発展時代を迎えています。いわば、21世紀はこれまでの市場経済ルールを超えた「グローバル『新』時代」であるといえるでしょう。

第四次産業革命と新たな価値創造

第四次産業革命と新たな価値創造

変貌しているのは経済に限りません。科学技術においても急速に生産工程のネットワーク化・デジタル化が進み、いまや「第四次産業革命」と呼ばれる改革期に突入しています。

皆さんもスマートフォンやタブレットをお持ちでしょう。これにより、皆さんはデジタル化された多くの情報をすぐに手元で見ることができ、またSNS等を通してすぐにインターネットに情報を発信できます。産業の生産工程においても、デジタル化により作業を自動化し、バーチャルのレベルで様々な操作を行うことで、コストの極小化が実現可能となりました。

このように、あらゆるモノやサービスをインターネットで結ぶ(IoT)ことにより、新たな価値創造に向けて世界中が競い合っています。これからは、IoTにより多種多様なデータを大量に蓄積し人口知能(AI)等で解析する、情報通信技術(ICT)がますます重要となることでしょう。

持続可能な発達に向けて

持続可能な発達に向けて

これらの発展の一方、大きな課題であるのが食糧・エネルギー問題です。新興国・途上国が今後も成長を続けるとすると、2010年から2030年までに石油や石炭の使用量はおよそ1.3倍になるといわれています。当然CO2の排出量も増加します。世界の人口もまだまだ増えると予想され、都市に住む人たちは今後も増えていくことでしょう。水の需要も2000年から2050年までに1.5倍に増加、食糧においては1.6倍に増加が見込まれています。また、経済が豊かになると肉の消費が増える傾向にあります。家畜を育てるためには、飼料つまり穀物を育てなければなりません。そして穀物を育てるために、さらに多くの水が必要になります。

このような諸問題は「国連ミレニアム重点課題」にも取り上げられています。わたしたちも先進国の立場から世界全体の問題に取り組み、今後の持続可能な発達について考えなければなりません。

グローバル「新」時代の日本、そして大学の役割

グローバル「新」時代の日本、そして大学の役割

では、このグローバル「新」時代において、日本は、そして日本の大学はどのような役割を果たすべきでしょうか。

皆さんは「課題先進国」という言葉をご存知でしょうか。先進国は経済成長を遂げ豊かである一方、他の国に先行して公害や少子高齢化などの問題に取り組むこととなります。つまり、このような諸課題を他の国々に先駆けて解決する役割があるのです。特に、平和な国として高度経済成長を遂げてきた日本だからこそ、途上国・新興国の政治経済社会の安定性、世界の持続可能な発展に大きく貢献すべきでしょう。

ここで重要となるのが、社会科学や人文科学の知見です。新興国には現在、政治・経済・社会・生態系・自然環境などさまざまな課題があり、経済システム・企業経営・政治や法制度・社会制度・文化・宗教なども多岐にわたります。だからこそ、社会科学の知見からそれぞれの社会の政治経済を明らかにし、人文科学の知見からその人間的な特徴を明らかにすることが、よりいっそう重要になります。

こういった社会科学や人文科学の知見は、今後の理工系、特に工学の分野においてもますます求められます。スマートフォンを例に考えてみましょう。日本製のスマートフォンは最先端の研究により、コンパクトに多機能要素を実現したものの、高価格となってしまいました。一方、サムスンはその国の社会・文化、あるいは人々の思考を徹底的に調査することで、ニーズにあったものをいかに安く提供するかを追求しました。その結果、サムスンはあれだけのシェアを占めることに成功したのです。「それぞれの国に目を向けた開発」という視点なしに、今後日本が他の国や新興国と勝負することはできないでしょう。

これらの知見をそなえた人材を育成し、社会において改革を行っていく。それは「成熟化社会」の状態にある日本を今後再生させていくうえで、大学の重要な役割であるといえます。

21世紀に求められる人材とは

以上を踏まえ、これからの時代で求められる素養について、私は次のように考えています。

第一に、「文理融合の幅広い視野」。専門性はもちろん必要ですが、前述の通りいまやそれだけでは通用しません。複雑で多様化したグローバル新時代の諸問題に対して、好奇心・問題関心をもち、学部の専門性を磨くと同時に幅広い視野をもつ。新興国・途上国の政治経済、制度、文化、宗教などを深く理解していくことが大切です。

第二に、「地元地域への関心」。学力の3要素(「基礎知識を身につける」・「判断力や表現力」・「主体的な学力」)にも通じますが、高校や大学、そしてその先でも、人々と連携して主体的に課題に取り組む姿勢は重視されています。本や座学の学びも有意義ですが、地元の社会課題に即して関心を持ち、実際に地域の自治体・企業等と積極的に連携しながら問題解決に貢献する。この経験は社会において必ず生きてきます。

第三に、「グローバルな視座」。語学力以外に、日本の歴史、文学、文化、芸術の知識などを、自分の頭で考え自分の言葉で語り、新興国・途上国を含む世界の人々とコミュニケーションできることが求められます。また、現状として日本はまだまだバリアフリー・男女協同参画のような、「共生社会を理解し実践する」という意識が欧米にくらべると低いのが実情です。グローバルな時代に生きるためには、このような考え方や視点に立つことも重要でしょう。

文理融合の素養を身につけ、「夢」をもって次の時代へ

文理融合の素養を身につけ、「夢」をもって次の時代へ

これまでも話したとおり、教養(リベラルアーツ)は文理融合の視点という点で、あるいは国際交流の点で、大変意味のあるものです。高校の学習では文系でも物理・化学を勉強し、理系でも歴史や国語・古文を勉強します。その学びは必ずこれからの教養の基礎になるので、ぜひ特定の科目を疎かにすることなく励んでください。
また、数学・コンピューターの知識は、人文社会系の研究においてもおおいに役に立ちます。たとえば、自動車1台の生産活動にどれぐらいのCO2が排出されるか算出しようとした際、原材料の鉄やアルミの生産工程で排出したCO2も当然考える必要があります。連立方程式の知識さえあれば、これらの数値も表計算ソフトで算出できるのです。もっとも、数学も万能ではなく、その対象となるものが数学的に同質であるか、どの範囲まで計算が成立するかという理解が欠かせません。そのためにも人間・社会・文化の知識をつけ、感覚をつかむことが大切といえるでしょう。

最後に、これから受験勉強に臨む皆さんへ。どうか「夢」をもってこれからの受験勉強に取り組んでください。もっとも、「なかなか夢や社会問題への関心を持てない」という方もいるかもしれません。その場合は、まずはふとした時の好奇心を大事にしてください。たとえば、ニュースで「これはどうしてだろう」と気になることがあったら、図書館や書店に立ち寄ってみる。友達と社会問題に関して「もし自分が総理大臣だったらどう判断する?」と会話をする。町内会で掃除をする際に、年配の人に戦後の高度経済の時代の思い出を聞いてみる。そういう様々な機会を重ねるうちに、好奇心のアンテナがさらに反応するようになり、ますます関心が広がっていきます。

このような積み重ねは、絶対に大学や社会でも生きていきます。そして「こんな研究をしたい」、「これを解決したい」という夢をもっていれば、たとえ挫折しそうになっても必ず次につなげられます。ぜひ希望をもってそれぞれの受験に挑んでください。ご清聴ありがとうございました。

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